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東京地方裁判所 昭和59年(特わ)1559号 判決 1984年7月04日

主文

被告人を懲役八月に処する。

未決勾留日数のうち一五日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、韓国籍を有する外国人であって、昭和五二年四月一四日ころ、韓国から兵庫県神戸港に渡航上陸して本邦に入った者であるから、その上陸の日から六〇日以内に、居住地の市町村(特別区又は指定都市の区)の長に対し外国人登録の申請をしなければならないのに、右上陸後同年七月上旬ころまでの居住地大阪市生野区田島五丁目一八番三一号所轄の大阪市生野区長に対し、更にその後被告人の居住した大阪市平野区、千葉県松戸市、東京都足立区においても各所轄の市長、区長らに対し、これを怠り、昭和五九年五月一一日までその申請をしないで、右規定の期間を超えて本邦に在留したものである。

(証拠の標目)《省略》

(法令の適用)

被告人の判示所為は、昭和五五年法律第六四号(外国人登録法の一部を改正する法律)附則二項により同法による改正前の外国人登録法三条一項に違反し、外国人登録法一八条一項一号に該当するところ(なお、外国人登録法一八条一項一号も、昭和五五年法律第六四号により改正され((昭和五五年一〇月一日施行))、更に昭和五七年法律第七五号((外国人登録法の一部を改正する法律))により改正された((昭和五七年一〇月一日施行))規定であるが、右各改正法施行前に外国人登録法三条一項の規定に違反し同法一八条一項一号の罪を犯した者が、その後所定の登録の申請をしないまま、右各改正法施行後に及んだ場合には、右各改正前の犯罪行為と各改正後の犯罪行為とは相合して一個の継続犯を構成し、各改正後の新法の適用を受けることになると解すべきであるから((最高裁判所昭和三一年五月四日第二小法廷判決、刑集一〇巻五号六三三頁参照))、まさに右場合に該当する本件においては、判示所為に対し現行規定である昭和五七年改正法による改正後の規定を適用すべきは当然である)、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役八月に処し、刑法二一条を適用して未決勾留日数のうち一五日を右刑に算入し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項但書を適用してこれを全部被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

本件は、判示のとおり被告人が昭和五二年四月ころ韓国から密入国し、身を隠すため七年余りにわたって外国人登録の申請を怠っていたという事案であるところ、被告人がわが国に密入国したのはこれが三回目であり、被告人は昭和四八年三月ころ韓国から密入国し、その後まもなく捕えられて罰金七万円に処せられたうえ、同年一一月に韓国に強制送還され、再び昭和四九年八月ころ密入国し、昭和五一年に捕えられて同年六月に懲役一〇月執行猶予三年の判決を受け、同年七月に再度韓国に強制送還されたにもかかわらず、その後一年も経たないうちにまたも密入国するに至ったというものである。してみると、被告人のこのような法を無視した態度はこれを看過することができず、被告人が再三にわたってわが国に至った底には被告人の韓国における生活の苦しさがあり、この点同情できることや、今回も自己の刑責を果たしたのちは直ちに韓国に強制的に送還されるであろうことなど被告人に有利に斟酌できる情状を最大限考慮しても、被告人に対しては前示のとおりの刑を科するのを相当と認める。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本時夫 裁判官 佐藤學 松並重雄)

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